大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和39年(ワ)1321号 判決

原告

伴達明

代理人

東茂

被告

株式会社京都銀行

代理人

中江源

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は、原告に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和三九年一二月二二日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並に仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

「一、原告は、昭和三九年一〇月一四日、訴外安永喜三を使者として、被告銀行園部支店に、原告の別名の安永建二名義で、期間一ケ年の金三〇〇万円の定期預金をした。

二、原告は、昭和三九年一二月一七日、被告銀行東山支店を通じ被告銀行園部支店に対し、右預金の解約払戻を求めたが、被告銀行は、同年一二月二二日、解約払戻を拒否した。

三、よつて、原告は、被告に対し、右預金三、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三九年一二月二二日から支払済まで年六分の割合の遅延損害金の支払を求める。」

と述べた。

被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、

「一、原告主張の一の事実は否認する。

二、被告銀行園部支店と取引のあつた訴外安永喜三は、昭和三九年一〇月一四日、被告銀行園部支店に来店し、支店長麻田平三に対し、自己を表示する名称として安永建二名義を使用して、期間一ケ年の金三〇〇万円の定期預金をしたい旨述べ、現金三〇〇万円を交付し、同支店長はこれを承諾し、安永建二名義の期間一ケ年の金三〇〇万円の定期預金の預入手続がなされた。

したがつて、右安永建二名義の定期預金債権の権利者は、安永喜三であり、原告でない。」

と述べた。

証拠≪省略≫

理由

<証拠>によれば、つぎの事実を認めうる。

(1)訴外安永喜三(住所、京都府船井郡園部町字船岡、当時被告銀行園部支店と銀行取引があつた)は、昭和三九年一〇月初頃、原告に対し、「自分の世話で、被告銀行園部支店に預金をして貰うと、自分が同支店より融資を受けられる。」と述べて、被告銀行園部支店に預金することの勧誘を依頼し、原告は、従兄弟の訴外安永千代栄を介し、同人の子の訴外安永建二(住所、京都市北区衣笠西開町一五の一四、当時被告銀行東山支店と銀行取引があつた)に対し、右預金をすることを勧誘し、安永建二は、被告銀行園部支店に期間一ケ年の金三〇〇万円の定期預金をすることになつた。

(2)そこで安永建二の代理人安永千代栄は、昭和三九年一〇月一四日、原告に対し、安永と刻んだ赤色合成樹脂製の小判型の印章と現金三〇〇万円とを交付して、被告銀行園部支店に期間一ケ年の金三〇〇万円の定期預金手続をすることを依頼し、原告は、同日、園部町の料理店において、安永喜三に対し、右印章と現金を交付して、右定期預金預入手続をすることを依頼した。

(3)安永喜三は、同日、右印章と現金とを持つて、一人で被告銀行園部支店に行き、支店長麻田平三に対し、預金名義上自己を表示する名称として安永建二名義を使用し、かつ右印章を届出印として使用して、期間一ケ年の金三〇〇万円の定期預金をしたい旨述べて、現金三〇〇万円を交付し、支店長がこれを承諾し、右印章を届出印とし、安永喜三の前記住所を届出住所として、安永建二名義の期間一ケ年の金三〇〇万円の定期預金預入手続がなされた。

(4)安永喜三は、同日、原告に、被告銀行園部支店長発行の安永建二名義の定期預金証書と右届出印章とを交付し、原告は、これをその頃安永千代栄に交付した。

(5)安永喜三は、昭和三九年一〇月一六日、被告銀行園部支店に対し、右届出印章と肉眼では判別困難な程度に酷似した印章を使用して作成した定期預金証書の喪失届を提出し、同年同月一九日、同支店より定期預金証書の再発行を受け、右定期預金を担保として、同支店より金三〇〇万円の貸付を受けた。

証人安永喜三の証言中上記認定に反する部分は採用し難い。

(一)甲が、乙に、印章と現金を交付して、預金名義人を甲とする定期預金預入手続を依頼し、乙が、右印章と現金を持つて、丙銀行に行き、預金名義人を甲とする定期預金預入手続をした場合、特別の事情のないかぎり、右定期預金債権の権利者は甲であると解するのが相当である。

(二)しかし、本件のように、甲が、乙に、印章と現金を交付して、預金名義人を甲とする定期預金預入手続を依頼したとき、乙が、右印章と現金を持つて、従来乙と取引関係のある丙銀行A支店に行き、支店長に対し、預金名義上自己を表示する名称として、甲名義(乙と同氏異名)を使用して定期預金をしたい旨述べて、現金を交付し、支店長がこれを承諾し、右印章を届出印とし、乙の住所を届出住所とし、預金名義人を甲とする定期預金預入手続がなされた場合、右定期預金債権の権利者は乙であると解するのが相当である。

したがつて、本件定期預金債権の権利者は、安永喜三であつて、原告ではない。(仮りに、本件の事実関係が(二)でなく(一)であるとすれば、本件定期預金債権の権利者は安永建二である。いずれにしても、原告は、本件定期預金債権の権利者ではない。)

よつて、原告の本訴請求は、失当として、これを棄却し、民事訴訟法第八九条を通用し主文のとおり判決する。(小西勝)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例